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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)609号 判決

原告 オーエス精器株式会社

右訴訟代理人弁護士 八木忠則

被告 株式会社東洋電機製作所

被告 森口正敏

被告 竹内正久

以上三名訴訟代理人弁護士 渡部喜十郎

同 深道辰雄

同 横張清美

同 芥川基

主文

被告株式会社東洋電機製作所は原告に対し、金二二八万八、〇〇〇円およびこれに対する昭和四五年二月一三日から完済まで年六分の場合による金員を支払え。

被告竹内正久は原告に対し金七八万円およびこれに対する昭和四六年三月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告の被告森口正敏に対する請求を棄却する。

訴訟費用は、そのうち、原告と被告株式会社東洋電機製作所および被告竹内正久との間に生じた分は同被告らの負担とし、原告と被告森口正敏との間に生じた分は原告の負担とする。

事実

〈全部省略〉

理由

一、〈証拠〉によると、原告は被告会社に対して昭和四四年九月二九日サンヨートランジスター二SB四七四型(黄色)六、〇〇〇個を代金八五万八、〇〇〇円で、同年一〇月二二日同品五、〇〇〇個を代金六五万円で、同月二五日同品三、〇〇〇個を代金三九万円で、同年一一月一日同品三、〇〇〇個を代金三九万円で売り渡したことが認められ、これに反する証拠はない。

そうすると、被告会社は原告に対し右買掛代金合計二二八万八、〇〇〇円およびこれに対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四五年二月一三日から完済まで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払義務があること明らかであるから、その支払を求める原告の請求は認容すべきである。

二、1.次に〈証拠〉によると次の事実が認められる。

原告は昭和四四年一一月五日取引先からの連絡で被告会社が前日の同月四日手形不渡を出したことを知ったので、原告社員高岡信次が早速被告会社に赴き、その代表者の弟である常務取締役の竹内睦夫および宮脇和行に面会し、原告が最近納入したトランジスターの返還を求めた。宮脇は社屋の四階にある倉庫へ調査に行った上、高岡に対し、原告から購入したトランジスターが六ケース(一ケースは、一、〇〇〇個入り)は倉庫にあるが、従業員により給料の担保として押えられていると述べた。高岡は一旦帰社し、山崎耕一、二本木功、その他一、二の者と同道して再度被告会社を訪れた。その際山崎らは右トランジスターについて原告が被告会社の従業員の給料債権にも優先する特別の先取特権を有する旨および右商品の引渡を求める旨を記載した書面を作成して携行し、これを前記竹内睦夫に示して在庫のトランジスターの引渡を強く要求したが、同人はこれを拒否した。原告は止むなく、右商品につきとりあえず仮差押手続をとることとしたが、その前に同月一〇日頃在庫の有無を確かめるため、高岡が被告会社を訪れ、竹内睦夫の案内で倉庫内を見分したところ、トランジスターは全く存在せず、これに対する原告の権利を行使するに由ないことを知った。高岡は被告会社代表者竹内正久に面会して訊したところ、同人は、大口債権者の被告森口が自動車、測定器、トランジスターなど目ぼしいものを全部持って行ったと答えた。

そして右認定の事実によると、昭和四四年一一月五日当時、被告会社においてこれよりさき原告から買い受けたトランジスーのうち六、〇〇〇個は被告会社の倉庫に保管されており、これが同月一〇日までの間に被告森口に対して譲渡されたものと認めるのが相当である。そして右譲渡は被告会社代表者たる被告竹内正久の指示ないし了解の下に行われたものと推認するに難くなく、かつまた右トランジスターに対しては原告が民法三二二条により売買代金七八万円について特別の先取特権を有するものであるところ被告竹内はこのことを知っていたものと認めるのが相当である〈省略〉。

2.原告は、右譲渡行為は被告竹内と被告森口との共謀に基づいて行なわれたと主張するが、この主張を認めるに足りる証拠はない。

3.ところで、被告会社が同年一一月四日不渡手形を出して事実上倒産したことは前記のとおりであり、その後債権者委員会が組織され債務の整理が図られたが、未だ弁済はなされたことがなく、同月一〇日現在では既にめぼしい財産もなく、原告に対する債務を弁済できる資力はなかったことは被告竹内の自認するところである。

そうすると、被告竹内は前記トランジスターを被告森口に譲渡することによって原告の先取特権行使を不能ならしめ、もって右権利行使によって得べかりし売得金相当額を失わしめて原告に同額の損害を与えたものといわなければならず、同被告は原告に対してこの損害を賠償する義務を負う。もっとも同被告は被告会社代表者として譲渡したものであるが、このことは個人としての不法行為責任を免れしめるものではない。そしてその金額は右トランジスターが原告から被告会社に売り渡されて間がないことに照し、原告の売渡価格たる七八万円と認めるのが相当である。

4.そこで、被告竹内に対し、右金員およびこれに対する不法行為後の昭和四六年三月三〇日から完済まで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由があるからこれを認容すべきであるが、被告森口に対する請求は理由がないから棄却すべきである。

三、以上の次第で、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用し、仮執行宣言はこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤安弘)

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